ナノポアを用いたDNAの一塩基変異位置の検出に成功
ナノポアを用いたDNAの一塩基変異位置の検出に成功
国立大学法人欧洲杯线上买球_欧洲杯足球网-投注|官网大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司准教授と同大学大学院生 劉娉は、一分子のDNAを検出できる「ナノポア(注1)」を用いて、DNA断片に存在する変異位置検出に成功しました。本技術は体液からがんの早期発見、抗がん剤の感受性に関する簡易診断への応用が期待されます。
本研究成果は、Wiley Publishingが発行するSmall Methods(IF=12.13)に掲載されました。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/smtd.202000101??
論文名: Recognition of Single-Point-Mutation using a Biological Nanopore
著 者: Ping Liu and Ryuji Kawano
現状
最近、血液や尿などの体液を利用した液体生検がん診断法(リキッドバイオプシー)が、患者への負担が少ないがん診断法として注目されています。がん細胞が免疫によって破壊される際に、血中に漏れ出した血中循環DNA (cfDNA)はがん由来の遺伝子情報を持つことから、がんの早期診断への応用が期待されています。また、個人の遺伝子変異位置によって、抗がん剤に対する感受性が異なる場合があるため、cfDNAの変異位置情報を読み取れば、患者の負担を抑えた個人遺伝子の特徴に合った治療を最適化する医療(オーダーメイド医療)が実現できます。しかしながらリキッドバイオプシーで用いるcfDNAは急速に分解されてしまうため、採血から迅速に変異を検出する必要があります。
従来の方法では、主にPCR法によるDNA増幅後に、蛍光プローブもしくはDNAの配列を直接読むことで塩基の変異を検出しています。PCR法では変異を検出するまでに時間がかかることや、適切なプライマー設計に課題がありました。そこで本研究ではナノポアを用いて、変異を持つ核酸断片をラベルフリーで電気的に迅速検出する方法を開発しました。
研究体制
本研究は、大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司准教授と大学院生物システム応用科学府 大学院生 劉娉らによって実施されました。本研究はJSPS科研費17K19138、19H00901の助成を受けたものです。
研究成果
本研究では生体ナノポアを用いてDNA断片中の一塩基変異を迅速かつ簡便に検出する手法を開発し、またその変異位置の特定を試みました。肺がん罹患時に検出されるcfDNAの配列を参考にモデル配列DNAを合成しターゲットDNAとし、それに対応するナノポア計測用プローブDNAを設計しました。ナノポア計測より得られるDNAの電流阻害時間と電流阻害レベルを組み合わせて解析することによりDNA変異の有無だけではなく、その位置を一塩基レベルで検出することに成功しました(図1)。ナノポア計測では、マイクロ加工技術で作製した微小デバイスを用いており、これにより小型で迅速な装置による変異検出を実現できました。
今後の展開
本研究によって、がんの次世代早期診断マーカーに利用されるDNA断片において、変異の有無だけではなく、その位置まで特定することに成功しました。本成果は従来のPCR法に替わる迅速?簡易的に癌の診断を実現できる可能性を示しています。今後は、各種医療機関と共同で実際のがん由来cfDNAの変異位置検出に関して検証を行い、診断だけではなく予後治療評価や転移性度の診断にも適用可能か検討します。また将来的には大規模診断の現場において各種がんの簡易診断法としての展開を目指します。
注1)ナノポア
膜タンパク質やイオンチャネルによって、脂質二分子膜中に形成されるナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)サイズの微細な孔(ポア)。
◆研究に関する問い合わせ◆
欧洲杯线上买球_欧洲杯足球网-投注|官网大学院工学研究院
生命機能科学部門 准教授
川野 竜司(かわの りゅうじ)
TEL/FAX:042-388-7187
E-mail:rjkawano(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
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