様々なイネ系統の全ての遺伝子の応答を、気象情報から予測可能に

様々なイネ系統の全ての遺伝子の応答を、気象情報から予測可能に
ー栽培地の環境を考慮したより高精度な育種を可能とする技術を開発ー

【本件のポイント】

  • 野外圃場で生育期間を通じて様々なイネの系統の遺伝子発現を測定し、新たに開発したデータ解析手法によって、系統間の環境応答の差異を生み出すゲノム領域を同定
  • 気象データとゲノムデータから任意の時点、系統の遺伝子発現を予測可能に
  • 様々な栽培地や年度における遺伝子レベルからの応答予測が可能になることで、より高精度な育種が可能となり、食糧問題解決への一助へ

【本件の概要】

 同じゲノム配列を持つ同一品種であっても、収量や品質は環境によって大きく変化します。これは、作物の遺伝子の発現量*1(どの遺伝子をどのくらい働かせるか)が環境によって変化するためです。その結果として地域間差、年次間差が生じます。我々のグループはこれまで、世界に先んじて、特定のイネ品種の遺伝子発現量の環境応答を予測する手法を確立してきました。しかしながら、別のイネ品種には応用できないという課題がありました。本研究では、新たに開発したデータ解析手法(edQTL解析)を用いて、イネ品種コシヒカリとタカナリに由来する多様な系統間における遺伝子発現量の環境応答の差異とゲノム多型との関連性を網羅的に調べ、1675遺伝子の環境応答の差異を生み出すゲノム領域を同定しました。さらに、同定したゲノム領域の情報をモデルに導入することで、任意の環境におけるコシヒカリ?タカナリ子孫系統の全遺伝子発現量の環境応答を高精度に予測できるようになりました。本研究で開発した遺伝子発現量予測手法は、他のイネ品種や他作物にも適用可能であり、栽培環境によって品種のパフォーマンスが異なるという育種における重要課題を解決する一助になると期待されます。

 本研究は、龍谷大学農学部 永野惇准教授(慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授)、龍谷大学食と農の総合研究所 鹿島誠特別研究員(現?青山学院大学理工学部化学?生命科学科助教)らを中心として、龍谷大学、欧洲杯线上买球_欧洲杯足球网-投注|官网、京都大学、青山学院大学、滋賀大学、済美高等学校、慶應義塾大学からなる研究チームによって実施されました。本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CREST「野外環境と超並列高度制御環境の統合モデリングによる頑健性限界の解明と応用(代表?永野惇)」プロジェクトの一環として実施されました。

タイトル:Genomic basis of transcriptome dynamics in rice under field conditions
著者:Makoto Kashima, Ryota L. Sakamoto, Hiroki Saito, Satoshi Ohkubo, Ayumi Tezuka,
Ayumi Deguchi, Yoichi Hashida, Yuko Kurita, Koji Iwayama, Shunsuke Adachi and Atsushi J. Nagano
掲載誌:Plant and Cell Physiology, 2021, pcab088

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