ウミウシのフェロモンもわずか3工程の触媒反応で全合成:ホウ素を目印とした生理活性物質共通構造の触媒的合成に成功

ウミウシのフェロモンもわずか3工程の触媒反応で全合成:
ホウ素を目印とした生理活性物質共通構造の触媒的合成に成功

 国立大学法人欧洲杯线上买球_欧洲杯足球网-投注|官网大学院工学府応用化学専攻 倉持歩実(修了生)、同大学院工学研究院応用化学部門 小峰伸之助教、同工学府 清田小織技術専門職員、同大学院工学研究院応用化学部門 平野雅文教授の研究チームは、生理活性物質に多くみられる二重結合と単結合が交互に繰り返された共役ポリエン構造とよばれる共通構造に目印としてホウ素を持つ化合物を触媒合成しました。この共通構造を持つことが知られているウミウシのフェロモンもホウ素を目印とした反応により、わずか3工程で合成することに成功し、実際に触媒合成した化合物がフェロモンとして機能することを確認しました。この成果により、医薬品や天然物の効率的な合成が期待されます。

本研究成果は、日本化学会欧文誌Bulletin of the Chemical Society of Japan誌(6月19日付電子版)に掲載されました。
論文名:Ru(0)-Catalyzed Synthesis of Borylated-Conjugated Triene Building Blocks by Cross-Dimerization and Their Use in Cross-Coupling Reactions
URL:https://www.journal.csj.jp/doi/abs/10.1246/bcsj.20210163


現状
 医薬品や生理活性物質に多く見られる共通構造の1つに二重結合と単結合が交互に繰り返された炭素骨格からなる共役ポリエン構造があります。例えば抗真菌剤とよばれる抗生物質は4系統ありますが、その1つが共役ポリエン構造と呼ばれる共通構造を持っています。この共通ポリエン構造にホウ素置換基を導入すれば、2010年のノーベル化学賞の受賞対象となった鈴木?宮浦クロスカップリングとよばれるホウ素を目印とした触媒反応により、これらの共通構造を持つ多くの医薬品や生物活性物質を簡単かつ迅速に合成することができます。しかし、これまで共役ポリエン構造にホウ素を直接導入するための方法はなく、この構造をつくるために多段階の反応が必要でした。

研究体制
 本研究は、欧洲杯线上买球_欧洲杯足球网-投注|官网工学府応用化学専攻 倉持歩実(修了生)、同大学院工学研究院応用化学部門 小峰伸之助教、同工学府 清田小織技術専門職員、および同大学院工学研究院応用化学部門 平野雅文教授により行われました。また、本研究は、科学研究費補助金 基盤研究(B) (17H03051)の助成などにより行われました。また、この技術は科学技術振興機構(JST)の支援により国際特許出願と各国移行支援を受けることが決定しました。


研究成果
 本研究では、ホウ素が置換された共役ポリエン構造を、ホウ素が置換されたアセチレンやブタジエンのカップリング反応により合成しました。このカップリング反応のための触媒としては、0価のルテニウム錯体が触媒として唯一すぐれた活性を示すことが分かりました。また、ルテニウム錯体はホウ素置換基とは反応しないため、ホウ素が置換された共役ポリエンが効率的に生成しました。このように合成したホウ素が置換された共役ポリエン構造は、パラジウム錯体を触媒とした鈴木?宮浦クロスカップリングにより、ホウ素を目印として位置および立体選択的に構造導入できました。また、2つの異なる位置にホウ素が置換された共役ポリエンではそれぞれのホウ素に異なる有機基を選択的に導入できることも明らかとしました。これらの新反応を応用して、共役ポリエンの共通構造を持つウミウシの警報フェロモンの合成を行いました。このフェロモンはこれまでにも全く異なる経路での合成が知られていましたが、今回開発した方法ではわずか3工程で全合成できることを明らかとしました。さらに触媒合成したフェロモンをウミウシに投与したところ、実際に回避行動が確認され、警報フェロモンとして機能していることを確認しました。

今後の展開
 共役ポリエン構造は、医薬品や農薬をはじめ天然物に多くみられる共通構造であり、本技術により、これらの共通構造を持つ生理活性物質の合成の短工程化と高効率化に貢献すると考えられます。

図1. ウミウシのフェロモンも3工程の触媒反応で全合成
図2.  ホウ素を目印として持つ共役ポリエンの合成例。R¹、R²およびR³は置換基、Xはハロゲン元素を表している。1段階目では選択的に異なる分子間で反応し、同じ分子どうしが反応することのない反応です。2?3段階目の反応では、2つのホウ素の反応性を調整することで異なる置換基の直接導入にも成功
図3. ウミウシに合成した警報フェロモンを投与。(A)実験に使用したウミウシ(Chromodoris willani)。(B)警報フェロモンを染み込ませた短冊状のろ紙を近づけた瞬間。(C)および(D)ウミウシの回避行動を確認(日本化学会?許可転載)

◆研究に関する問い合わせ◆
欧洲杯线上买球_欧洲杯足球网-投注|官网大学院工学研究院
応用化学部門 教授
 平野 雅文(ひらの まさふみ)
  TEL/FAX:042-388-7044
  E-mail:hrc(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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